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 近江の鮒ずしは古代の馴れずしの技法を千年以上も連綿と守り続けていて、その伝承は奇跡的で、日本のすしの原点・原型といわれる所以でもあります。 もともとすしは保存食として発達したもので、塩蔵した魚を米飯を使って自然発酵させ、生じた乳酸で魚の腐敗を防ぐという自然のしくみを巧みに利用したものです。 出来上がったものは強い香気がありますが、乳酸菌による殺菌作用で古来より冒腸病、下痢症等に効き目があるといわれており、外国人からはチーズに似ているという感想もありました。

 さて、この鮒ずしの原料のフナですが、おもにゲンゴロウブナとニゴロブナが使用されています。 高島町加茂川崎から安曇川河口の沖合は琵琶湖の中でも最も深く(水探、103.58m)、このあたりで育ったフナは体幅が厚く、丸みがあって桜が咲く頃なるとお腹にたくさんの卵がきれいに詰っています。 水温が低いためか身が締まって味も格段に良いので、このあたりのニゴロブナ(似五郎鮒)の鮒ずしが最高といわれております。 尚、三尾埼(明神崎ともいう)から加茂川崎にかけての沖合の鮒は特に「紅葉鮒」といって平安時代から明石の桜鯛・大和の錦鯉と共に珍重されてきました。

 四月上旬から卵をいっぱい持ったニゴロブナが揚がり始めると、その年度の鮒ずしの始まりです。 まず、活きてビンビンはねているフナの鱗を小刀で一気にかき落とします。 まだ、フナは活きていますが、次にエラをはずし、口からまな箸を差し込んで、浮袋や内臓を丁寧に素早く取り出します。

 この作業を「筒抜き」と読んでいますが、卵の袋をそのまま残し、苦玉 (胆嚢)をつぶさないようにさぐり取るわけですから熟練を要します。 この作業は夫婦以外の他人には任せられません。 完全に取れているか否かはお客様が切って始めて分かるわけですから、それをきれいに水洗いして血抜きをします。 そしてお腹に塩を詰めて、すし桶の中に漬け込み、落し蓋をして重石をのせます。 そして七月、土用を過ぎた頃からこの塩漬のフナを取りだし、ササラで一尾ずつ丁寧に塩を洗い流します。 これが塩抜きです。天日に干していよいよ飯漬。 極上の近江米を炊いて人肌にさまし、はずされたエラの部分に詰め、桶の底から御飯と交互に重ねて、漬け込んでゆきます。 最上部にはビニール(以前は竹の皮)をかぶせ三つ縄を巻いて落し蓋をし、重石をのせ熟成するまで馴れ具合を待ちます。 年によって冷夏や猛暑がありますので常に温度管理には気を使います。 すし部屋で二〜三年じっくりと、守りをして鮒の馴れずしは風味を増してゆきます。
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『日本の老舗と食文化バックナンバー』
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