来々軒の餃子には、5時間かけて作ったナポリタンでも勝てなかったという話

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「普通の餃子とは大きさが違うんだ、10個にしとこう」

いざ餃子を焼こうとするタイミングになって、急に15個焼けという要求をしてくる妻に対して、私は優しくスマートに諭した。

この餃子、1個40グラムもある。
グラムで言ってもピンとこないであろうが、普通の餃子の倍位あり、しかも具がギュウギュウに詰まっている。
3個も食べるとかなりお腹いっぱいになるのだ。小さい子供のいる4人家族で、15個は多い。

 

しかし、焼く個数を最小限にしたい本当の理由は、餃子の大きさではなく、次に控えるメニューにあった。

「自家製ケチャップのナポリタン」である。

人生で始めて、ケチャップを手作りしてみたのだ。5時間かけて。
餃子でお腹いっぱいにされると、確実にナポリタンへの熱量が下がる。

来々軒の餃子には申し訳ないが、5時間かかって作ったのだ。
オマケに餃子はまだたくさんある。チャンスは何度でもやってくる。今日のところは諦めて欲しい。

そうして、餃子を10個焼き始めた。

添付の焼き方に普段私が行う方法と1つだけ違う点があった。

「水ではなく、熱湯を使え」とあるのだ。
こうすると皮がモチモチになるらしい。

この皮は、「浅草開化楼」の特注品。皮に対するこだわりが焼き方にも現れている。大変勉強になる。

「皮がモチモチで美味しい!」

さすが我が妻、こちらが言って欲しい事が何かをよく解っている。

すかさず、「この皮は浅草の開化楼の特注品だから、皮の魅力を引き出すために熱湯を使ったんだ」と、10分前に仕入れた情報を、さも昔から常識的に知っていたがごとく答えてやった。

 

その後である、

「うーーん、この餃子皮が違うなぁ」
一瞬前まで、ドラえもんに集中していた息子が、さも自分は「味の違いがわかる」かのように呟いた。

息子よ、君が聞いてない振りして我々の会話を聞いていたのは解っている。

しかし末恐ろしい、この年(7歳)でこの技術を身につけるとは。
まだまだ子供がゆえに荒削りではあるが、極めればありとあらゆる場面で「違いの解るできる男」を演じることができる。

言うタイミングさえ間違えなければモテるためのスキルにもなる。

今回は、親でも聞かなかった事にしたいタイミングではあったが、
一応「違いがわかるのかぁ凄い!」と褒めておいた。

この餃子の美味しさは本物であった。
瞬く間に皿の上の餃子が減っていく、子供もがっついている。

私は一気に3個を食べ、次の料理(ナポリタン)に移った。
妻が3個食べて、息子が2個で娘が1個。残りの1個はナポリタンの後で私か妻が食べれば良い。
お腹の空き具合もちょうど良い。

 

ナポリタンは簡単な料理であるが、繰り返すがケチャップに5時間かけているのだ。
是非とも美味しく食べて欲しい。
そのため、子供が残す原因になるであろう「ピーマン」を入れるのは我慢した。

後はスパゲティが茹で上がったらソースと絡めるだけ。
ちょっと伸びてるくらいが美味しい。アルデンテなんてもってのほかだ。

そこで「ご飯おかわり!」との声が聞こえた。またしても、空気を読めない息子である。

うかつだった。
餃子の量のコントロールに気をとられていて、ご飯にまで気が回らなかった。
「ご飯おかわり」という事態も想定し、理想的はご飯と餃子の分量について、事前にレクチャーしておくべきであった。

しかし、である。
ご飯も無く、餃子だけを食べるのは、さぞ無念であろう。
ましてや老舗、木場の来々軒の餃子である。
誰もその「おかわり」を我慢できなかったからこそ、この店は続いてきたのだ。

ましてや血を分けた息子の「おかわり」を拒否できるだろうか?
私は複雑な思いで、ご飯をよそい、息子の所まで持って行った。

それでもなお、私には自信があった。
それくらい今日のナポリタンは美味しい(はず)。
さっきちょっと舐めてみたが、ケチャップだけでも相当イケる。これならきっとがっついてくれる。

私は、家族の胃のポテンシャルと、会津産の完熟トマトを使った自家製ケチャップにかけた。

 

スパゲティは茹で上がり、隠し味にウスターソースを入れたソースと絡める。
程よく水分を飛ばし、皿に山盛りに盛る。この雑な盛り方こそが「ナポリタン」なのである。

もちろんフォークは出さない。箸で食べてこそのナポリタンだ。

まずは、自分の小皿に盛って吸い上げる!

う、うまい!!
これは本当にうまい!我ながら上手にできた。トマトが美味しい(会津産)から旨みの奥行きが違う!

妻はどうだ!?
ナポリタンには欠かせないソーセージを上手によけて食べている。
妻は市販のソーセージは体が受け付けず、ちゃんと作った本物のソーセージしか食べないという面倒くさい性質がある。
「何でソーセージを入れるんだ」というオーラが凄い。チクショウ。

息子は!?
がっついている。やった!これからも男同士友情を深めよう。パパはそんな君が大好きだ。
そう思ったのも束の間、また言い出した。

「変な味がする」

バレたか。

途中までは、子供も食べられるケチャップを作っていたのだが、どうしても香りを付け足したかった。
最後にクローブとカルダモンをほんの少しだけ入れてしまったのだ。出来心だった。
子供の鼻(舌)は、そういう「苦手な何か」を嗅ぎ分ける能力に長けている。

象さんの絵が描いてある皿を、「察してくれ」と言う目をして、無言で私に付き出してきた。

娘にいたっては、すでにソーセージたけは綺麗に平らげ、ドラえもんに集中している。
気がつくと最後の1個の餃子もない。彼女がしれっと食べていた。

横では妻が、別に作ったトマトソース(ケチャップほど煮詰めないしスパイスも入っていないもの)をかけて食べている。「この方が美味しいよ!」と。

「それだとね、トマトソースのスパゲティであって、ナポリタンではないのだよ」
私はやさしくスマートに諭した。

来々軒の餃子には、5時間かけて作ったナポリタンでも勝てなかったという話。

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