八幡平山麓の広大な放牧場で育った鹿角短角牛の脂は、青草の香りを蓄え、肉にも独特の香りがする。
その香りは焼くことで際立ち、欧米のステーキハウスから漂う肉を焼く芳香に近い。
肉汁を蓄えた骨太の赤身の味わいは、黒毛和牛にはない魅力。
脂のうまさで食べさせるのではなく、赤身の魅力を、脂と肉汁の焦げる香りで引き立てると言った方が良いかもしれない。だからこそ、炭火で焼いて欲しい。炭火でなくとも、直火で焼いて、脂から立ち上る煙を必ずまとわせて欲しい。
調味料はシンプルに塩コショウ。塩は岩塩。コショウは挽きたてをたっぷり。
焼けた肉をしばらく休ませ、肉汁が落ち着いたところで、必ず厚切りにして頬張る。
口中を肉でいっぱいにして、歯と舌とあごと鼻孔の神経の全てを使って堪能したい。
およそ1kgのTボーンは片側がサーロイン、片側がヒレ。骨からもじっくりと加熱された肉は美味!二つの部位を同時に楽しめるのも嬉しい。
同じく1kgの塊は通常のニューヨークカットの2倍。これだけ厚いと焼くには時間が掛かるが、焼けた部分から食べてもかまわない。あまり、神経質に食べる肉ではない。
もちろん、きちっと焼きあげて、少し休ませてから切り分ける方が肉汁は出ない。
先ずはビールも良いが、やっぱり、フルボディの赤ワイン。
それもたっぷり欲しくなる。
付け合わせは味が濃いシンプルな野菜が一番。
ロケット草やトマトとの相性は抜群。
肉の味が濃いから、赤ワインと野菜で舌をリフレッシュ
させて欲しい。
不思議なほど飽きが来ない味は、赤ワインと語る相手がいれば、1時間ほどの至福の時を費やせば一人500gはいける。サンドイッチに挟んでも美味だから、残ったら、ローストビーフサンド的楽しみもある。
脂身はガーリックライスの絶好の友でもあるから、簡単に捨てない方が良い。
こうして堪能すれば、決して高い肉ではない。
大人の男が盛り上がる肉はまさにこんな肉である。霜降りと違い、たっぷり食べるから猛烈なパワーがつく気がする。
狩猟本能のDNAにもスイッチが入り、何故か精がついた気もするから不思議である。
㈱食文化 代表 萩原章史