
子供の頃は那智勝浦の魚市場が遊び場で、毎日、マグロ漁師に囲まれ、可愛がられ、鍛えられ、育った男が脇口水産の四代目 脇口光太郎
目利きしたマグロは、20年間で約140万本
瞬時にマグロの価値を見抜く目利き力に、8年の歳月を費やした、究極の冷凍ノウハウが加わり、熊野の海に集まる、様々な旬のマグロを選りすぐり、リーズナブルな価格で届ける事が可能になった。
生マグロ水揚げ日本一の勝浦!黒潮が大きな紀伊半島にぶつかる熊野沖には様々なマグロやカジキが集まる
脇口光太郎は活け締めの上質なマグロにこだわり、季節折々の魚の魅力を活かす売り方の研究に余念がない。
先ずは、大漁による相場暴落で、手取りが下がる漁師の生活を何とかしたいと考え、8年の歳月と大量の試作のマグロを費やし、自社開発の特殊冷凍システム(海桜鮪 かいおうまぐろ)を確立した。
この冷凍システムが度肝を抜く!名付けて海桜鮪(かいおうまぐろ)
解凍時のドリップが全くと言っていいほど出ない。プロでも冷蔵マグロと区別がつかないほどだ。さらに、何と、解凍後、冷蔵マグロ同様に海桜鮪は熟成を始める。
マグロの細胞が生きているのに極めて近い状態で、完璧な冷凍をすることで、これまでになかったマグロの流通を可能にし、大漁の時でも、良いマグロは品質に見合う価格で買う事が可能になった。
この海桜鮪は冷蔵でもなく、冷凍でもなく、まさに第三のマグロと呼ぶに相応しい。
大漁時に上質なマグロを仕入れて冷凍、年間通じて、安定的な価格を実現。
漁師も、仲買(脇口)も、消費者も得するモデルを実現しつつある男。
それが脇口光太郎だ。
脇口光太郎の目利き力はすごい!
熊野沖に集まるマグロも、特殊な冷凍システムも凄いが、凄いのは実は目利き力だ。
1897年に光太郎の曾祖母おさきが始めた魚の行商がルーツの脇口水産。
四代目の光太郎は三代の歴史と経験を受け継ぎ、20年間、1年を通じて、様々な種類のマグロとカジキを目利きする。恐らく、これまでに140万本は目利きしている。
マグロの型、肌の色、大きさ、身の色、脂の質、腹のにおい、季節、漁師や船の癖、活き上がりor死に上がり、後カメ(最後に釣れた)or先カメ(一番古い)
様々な情報を瞬時に統合して、『このマグロは良いぞ!』と値踏みして、札を決める。
意中のマグロを競り落とした時の光太郎の笑顔が妙に子供っぽいのは、この男が本当にマグロを好きな証。そして、熊野を愛し、熊野の鮪に対する強烈なプライドがある証でもある。
熊野沖は延縄漁のマグロ漁場 延縄と一本釣り どう違うのか?
マグロの身質(味)を決めるのは、魚そのものだけではないと言っても過言ではない。
マグロを釣り上げる際のマグロに与えるストレス、仕留め方、水揚げ後の扱い等々、そうした違いで素晴らしいマグロも売り物にならないほど品質劣化してしまう。
一番良いと言われているのは延縄漁。一本釣りと比べて、癖が無い味わいになる。
一本釣りの場合、延縄よりも少し酸味がある身質になるのが一般的だ。
どちらが好きかは個々人の好み。ただ、資源枯渇の原因と言われる、幼魚から何でもかんでも一網打尽にする巻き網のマグロは、網の中で暴れ、魚同士がぶつかり合い、傷つき、身が割れ、中には骨折するものもある。
資源枯渇の原因でありながら、不味いマグロを量産する巻き網漁(境港)は消費者がNOを突きつけるべきだろう。
こうしてマグロやカジキは商品になる
多い日には100トンを超える近海生マグロの水揚げを誇る勝浦。セリは7時スタートだから、暗いうちからマグロ船はマグロやカジキなどを水揚げし、セリに備える。
脇口光太郎は事前に入っている水揚げ情報を元に、片っ端から目当ての魚を目利きし、値踏みしていく。平均すると1日300本は目利きする。年に凡そ240日は競り場に立つから、毎年72,000本ほどのマグロやカジキの値踏みをしている事になる。
基本、活け締め(眉間部分に活け締めの打撲の傷がある)の鮮度の良いものを狙う。もちろん、良いマグロを競るのであるが、脇口には究極の冷凍システムがあるから、大漁で相場が下がる時こそが勝負だ。
思惑通り落札すると、すぐに脇口水産の社員が木箱や大きな保管容器に移し、大漁の氷を投入する。それを順次、加工工場に運び、丸のまま客先に送るもの、加工して送るもの、冷凍(海桜鮪)にするものを仕分けし、トラックに積んで目的地にマグロは向かう。
冷凍マグロの常識を超えた海桜鮪(かいおうまぐろ)
私が最初に試食したのはメバチの中トロ。正直、そんなに期待はしていなかったが、解凍したパックを開けてびっくり。全くドリップが出ていない上にしっとりしている。
細かな話だが、同じく冷凍されたワサビが入っているが、これがマズマという最高級ワサビで、実にいい。冷凍ワサビだけでも売りたいくらいだ。
5度〜10度の冷たい水で約15分掛けて解凍するだけで、こんなにうまいマグロが食べられるのは画期的だ。 ※何点か解凍に際しての注意事項はある。
どうして、こんなに凄い事ができるのか?企業秘密なので詳しくはわからないが、一瞬にして鮪を均一に凍結する事ができるから、細胞破壊が生じない。そういう事のようだ。
パッケージを見る限り「冷凍焼け?」と思われる色目でも、流水が注がれるボールで10分も泳げば、見事に色が戻る。
「マカジキ」冬場の極上マカジキは脂がちりばめられた身質で、大きな本鮪の上質な赤身と中トロの中間くらいの味わいでです。
「メバチ」東沖で獲れた最上級の脂バチ。この脂がのったメバチは一年でも最高クラスです。
「メカジキ」寒い時期に良質な脂を蓄えた究極のメカジキです。刺身はもちろん、鍋でもなんでうまい!
「モチビンチョウ」産地だけで消費されていた幻の「もちビンチョウ」もちもちした食感は癖になります。
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熊野は陸の孤島のような場所でもある。大切な自然の恵みを無駄なく、食し、糧にして、持続可能な資源利用を目指すのも脇口光太郎の信念だ。
残念ながら、マグロ資源は乱獲の為、危機的な状況にあると言える。
ただ、熊野の漁師は違う。幼魚を獲るような愚はしない。熊野三山の神々に感謝をし、自然の恵みのお裾分けを頂く。まさに、そんな熊野の人々の神々に対する畏敬の念と自然を大切にする気質が、脇口光太郎の背骨にはばっちっと入っている。
さすが、熊野の男は違う!脇口光太郎は熊野が好きで好きでしょうがないのである。
㈱食文化 代表 萩原章史