江戸東京野菜
食味も姿形もそれぞれ個性的! 粋な江戸っ子たちに愛され、 江戸の歴史と風土、食文化を今に伝える
江戸東京野菜とは?
おもに江戸時代に東京やその近郊で生まれ、伝統的に栽培されてきた野菜(在来品種)のこと。江戸時代、徳川5代将軍・綱吉が栽培を命じたとされる「練馬大根」や、8代将軍・吉家が命名したといわれる「小松菜(伝統小松菜)」など、江戸から多くの名野菜が生まれました。江戸は耕土が深く水はけのよい関東ローム層の土壌であったことから、特に根菜類の栽培や改良が盛んに行われました。参勤交代の大名たちが帰国の際に種子を買い求め、全国へと栽培が広がった品種も少なくありません。
江戸から東京へと呼称が変わった明治以降も、東京やその近郊では多くの在来品種が栽培されてきました。しかし、昭和30年代以降、農地の宅地化や、規格化された野菜を作りやすいF1種(一代交配種)への転換などの影響で、伝統野菜の生産量は激減します。そんな中、江戸の食文化を今に伝える伝統野菜を復活し、後世に残そうという機運が高まり、現在では約15種類の野菜が「江戸東京野菜」に指定され、少しずつ栽培が広がっています。
こだわりと熱意にあふれた生産者たちが、 江戸東京野菜の復活を担う
現在、一般に流通している野菜の大半は、「一定の形質や食味を備えた作物を効率よく栽培できること」を目的に、高度に品種“改良”されています。一方、江戸東京野菜など伝統野菜の魅力は、姿や形がそれぞれ個性的で、苦味やえぐみ、独特の香りなども含め、その野菜本来の複雑で奥深い味を楽しめることです。ただし、伝統野菜は栽培に手間ひまがかかり、生産者にとっては大変であることも事実。あえて困難に挑戦しようという、こだわりと熱意にあふれた生産者たちが、江戸東京野菜の復活を支えているのです。
その好例が、埼玉県新座市で「滝野川ごぼう」などを手がける輪嶋一成さん。「滝野川ごぼう」は江戸の元禄年間、滝野川村(現在の東京都北区滝野川)で生まれた品種で、根の長さが1mにも達します。このごぼうを大きく立派に育てるには、栄養豊かな土壌をつくり、深部まで柔らかく耕さなくてはいけません。 輪嶋さんは、米ぬかや生ゴミ肥料、有用微生物や独自に工夫した土壌活性液などを駆使して、土壌消毒も行わず完全無農薬で滝野川ごぼうを栽培。
「地力がありすぎて、うちのごぼうは130cm近くまで育つこともある。既成の出荷用段ボールに入らないため、120cmの箱を特注しました。掘るのが大変なため栽培がすたれていきましたが、『滝野川ごぼう』は太くても肉質が柔らかで、味が濃く、風味や香りがいい。自分がうまいもんを食べたいから、作り始めたんです」(輪嶋さん)。
葉もおいしい「亀戸大根」や「東京長かぶ(品川かぶ)」、 生でも美味な「馬込三寸人参」は、浅漬けで楽しみたい
家業を継ぎ、都内で農業を営む若い生産者の間でも、江戸東京野菜への注目が高まっています。練馬区の「ファーム渡戸」園主・渡戸秀行さんも、その1人。渡戸さんは4年ほど前から「亀戸大根」「東京長かぶ(品川かぶ)」「練馬大根」を栽培し、昨年から「馬込三寸人参」の栽培を始めました。東京長かぶは、一見すると小さな大根のような外観。馬込三寸人参は、三寸(約9cm)の名のとおり、一般の五寸人参(15cm前後)に比べて短く、ずんぐりとした形をしています。
「馬込三寸人参は形が揃いにくく、割れたり形が悪いものが1〜2割は出ますが、昔ながらの懐かしいにんじんの風味がして、にんじん好きの人には最高でしょう。亀戸大根や東京長かぶは、葉も柔らかでおいしい。調理法はいろいろありますが、まずは葉も一緒に刻んで塩でもみ、シンプルに浅漬けで食べるのがおすすめです」(渡戸さん)。
規格化され、くせやアクを抑えた万人好みの味に“進化”した現在の主流品種とは異なり、江戸東京野菜は食味、姿形ともにそれぞれ個性的。
「江戸の人々はこういう野菜を食べていたんだ!」という発見の楽しみもあります。江戸の歴史と風土、食文化を実感できる江戸東京野菜を、ぜひご賞味ください。
写真右上から時計回りに、「亀戸大根」「東京長かぶ(品川かぶ)」「馬込三寸人参」「練馬大根」