菓子の領域へ本能が憧れる甘美なみかん
和歌山県橘本 橋爪流
俊菓みかん

早生みかんの収穫が始める11月、俊菓グループの代表である橋爪俊典さんは、たわわに実っているみかんを、もいで落としていました。
「ここからもう一段階、旨みが増すので仕上げです。」
こんなことを言う生産者は、数多くの腕利き生産者を抱える当店でも異例と言えます。目の前の木になっているみかんは、美味しいのに落とす。それほどまでにこだわる理由は、3種類の糖である、果糖、ショ糖、ブドウ糖の割合にありました。完熟収穫することで、糖が上がるだけでなく、「美味しさ」が増すのです。
人の本能が憧れる甘みを追求
収穫は、通常より一ヶ月ほど長く樹上で完熟させます

多くの人を魅了し続けてやまない味覚の「甘み」。和菓子・洋菓子などの様々な形をもつ甘味ですが、その歴史を紐解き、たどりつく根源は「果実」です。 その「甘み」は、本能に欲求が刻まれているのです。甘みへの強い憧れはやがて、干柿のような加工法を生み出し、 甘み自体を抽出し形をかえた菓子も生まれては多くのひとを魅了し発展してきました。 では、「果実」そのもの美味しさ・「甘み」の追求・発展は...和歌山県 橘本の職人が考える果物の未来。菓子をも超える逸品に取り組んでいます。
ショ糖は本能で感じる甘さ
葉の光合成により作られたショ糖は、果実にためる段階で果糖に変わります。一般的にみかんのショ糖割合は、通常は30〜35%程度です。ところが完熟まで待つと、果糖が再びショ糖に戻るのです。 「俊菓みかん」のショ糖は40%ほどあり、場合によっては45%を超えることもあるそうです。 果実が出す完熟のサインが出るまで収穫を待ちます。
樹の原理に基づく栽培技術
俊菓みかんの生みの親「橋爪敏典さん」

2025年現在、旬菓グループは、橋爪さんを含め5名の生産者がいます。橋爪さんのみかん作りは、見て模倣できるものではありませんが、橋爪さんの教えを受ければ早く一流に近づけると確信を持って言えます。 経験からくる腕の良さはもちろん、果樹のメカニズムを知り尽くしていることが何より大きいです。橋爪さんほどの腕になると、他人が作った果樹を見て、その樹がどんな栽培をされてきて、どんな状態にあるかを瞬時に把握できるはずです。
俊菓みかんは天候が悪い年でも、ほとんど味が変わらない。
過去、橋爪さんに「今まで天候を言い訳にするまいと頑張ってきたけど、今年だけは自信がない。」と言われたことがありました。そんな年でも全く気が付かないほど高いレベルのみかんでした。普通は、天候が悪い年は、どんなに腕の良い方でも多少は味が落ちるものです。
果樹栽培は一年がかりで、収穫がおわったところから翌年の準備がスタートします。橋爪さんは「果樹は15日ごとに状態を把握する」と言っていましたが、15日後に自分の予想通りに行っていなければ修正を施します。その管理・修正能力が極めて高いから、紆余曲折があっても最終的なゴールに近づくのです。果樹の状態を正しく把握する能力も極めて高いはずです。
また、豊富な知識と経験から来る説明の上手さも、抜けています。
全く何もわかっていない人には、根本から説明をする。ある程度、知識がある人には、相手が理解できるところから説明をする。プロにはプロとしての説明をする。県外からも講演や指導を求められる理由が良くわかります。
ハウスでは3月〜4月収穫の完熟品
「俊菓デコ」「あすみ」を栽培しています


俊菓グループでは、俊菓デコと俊菓あすみを、3月〜4月までハウスで大切に育てています。
左の写真の「俊菓デコ」は、全て大玉に仕上げます。収穫量が少ないのは、一つ一つに栄養が行くようにするためです。糖度16〜19度を狙っているので、本来の収穫時期である12月に間引いて落とすそうです。完熟収穫による果肉の熟れた柔らかさと、糖度の高さは別の柑橘と感じるほどです。
右側の写真の「俊菓あすみ」は、2025年が初めての出荷でした。「あすみは国の研究機関が作り出した最高傑作」と橋爪さんが言うように、俊菓でも力を入れていくそうです。
生産者の井辺耕平さんから送られてきた試作品の糖度は、小玉サイズで20度超、3L超大玉で16.5度が出るほどでした。
「まだ樹が安定していないですが、あと数年したら3Lでも糖度18度は出せると思います」ということなので、今後に期待しています。
ギフト用みかんヘのこだわり
もっとも大切なことは、お客様の口に入るまでの状態です。


かんきつ腐敗抑制装置を流れていくみかん。
紫外線の中を通過することで、驚くほど傷みがでません。抑制効果は2週間ほど続くと言われています。※保管条件により効果が変わるので、保証するものではありません。
このような高額な装置をもっている小規模の生産者は、俊菓グループ以外でみたことがありません。11〜12月のみかんは贈り物として人気ですが、青果物であるため傷みやすいことも事実です。
俊菓みかんでは、みかんに衝撃が加わらないように選別はとても丁寧に扱っています。お客様にお届けした後も傷みにくいみかん、見えないところでの扱いも徹底していて、5〜6人ほどかけて品質チェックをします。
みかんは、1箱を10日〜2週間ほどかけてゆっくり楽しむ方も多いです。最後の1つまでお楽しみいただけるようにと、俊菓グループは取り組んでいます。
文章:赤羽 冬彦