町田成一の「季節の味ばなし」第1回:秋の枝豆
町田成一の「季節の味ばなし」
秋の枝豆
元「月刊dancyu」編集長。
現「うまいもん筆頭目利き人」の町田成一が出会った、
美味しい季節の味をお伝えします。
私の好物に「枝豆の釜炒り」がある。
よく塩揉みをした枝豆を、鉄鍋で煎る。水は加えない。枝豆自身の水分だけ。鉄鍋にふたをして強火にかけ、蒸し焼き状態にして火を入れる。枝豆のさやが割れてきたら出来上がりだ。
ちょっとさやが焦げるほど加熱すると、むせかえるような、ほっこりとした甘い香りが漂う。食べれば、慣れた枝豆とは段違いの旨みが押し寄せる。
飲みたくなるのは日本酒。ビールも悪くはないが、呼ぶのは酒。冷やした純米吟醸もよし、純米酒の燗酒だって合わせたくなる。これが枝豆の釜炒りだ。
釜炒りに合う、秋の枝豆
この釜炒りには、秋の枝豆がよく合う。
初夏から始まる青々とした枝豆とは違う。いわゆる、茶豆、黒大豆、在来種などと呼ばれるもの。元来は、枝豆用に品種改良されたものではなく、大豆や黒豆のために栽培しているものを、未熟なうちに楽しんできたのだろう。爽やかな甘味よりもコクのある豆たち。
これらは、ゆでてももちろん旨いが、釜炒りにすると個性が際立つ。山盛りを食べながらビールをぐいぐい、とは正反対の「ひとさやつまんでは酒をひと口」という、秋の夜長にいい枝豆だ。
秋の枝豆で、記憶に残っているものを以下に挙げさせていただく。
青森県の「毛豆」
自然農法で米を栽培している農家さんに教わった。慣行農法から自然農法に切り替える際に、田んぼの土壌改良のために大豆を植えるという流れの話だった。大豆の根粒菌を土壌改良に生かすのだ。せっかくなら地域に古くから伝わる大豆を植えたいと選んだのが毛豆で、それが実に旨い、と聞いたのだ。
秋を待って送っていただいたのが初顔合わせ。見た目からして違っていた。金茶色の毛がふさふさ。まさに毛豆。大きくて、しっかりとしていて、食べると豊かな甘みとコクがある。洗練とは正反対の力強い大地の味である。9月下旬から10月上旬が季節と聞いている。
山形県の「秘伝豆」
いわゆる青大豆の一つ。乾燥させても皮が青いから青大豆。青大豆は、産地の鶴岡などでは、きな粉にしたり、ずんだで楽しまれてきたらしい。私の出会いは、豆腐屋さんだった。近年、意識の高い豆腐屋さんが国産の青大豆を積極的に使い始めている。澄んだ味わいのある強い甘みが魅力だからだ。「枝豆も旨いよ」と聞いたことがきっかけ。とくに「秘伝豆」は、秘伝と名付けたことに納得のできる味わいだった。
山形県といえば鶴岡の「だだちゃ豆」が人気。青大豆の「秘伝豆」はそれに負けない風味をもつ。青大豆は、ほかにも「青畑豆」「鞍掛豆」「吉川在来」などいろいろあるので、その枝豆に出会えることをいつも楽しみにしている。
新潟県の「肴豆」
新潟県は「黒埼茶豆」に代表される枝豆王国。ここから一種を選ぶのは至難だが、長岡の在来種「肴豆(さかなまめ)」は見事。「ゆでていると隣の家まで香りが届き、その家の人まで酒を飲みたくなるほど。だから肴豆」という謂れもいい。近年は、肴豆の中から、小ぶりで食味が抜群に優れているものを選抜して生まれた「越一寸(こしいっすん)」もある。こちらは、まだ一度しか食べたことがないが、素晴らしかったと記憶している。どちらも9月下旬から10月上旬が季節。
岡山県の「作州黒」
秋の枝豆の代表格として、よく知られているものに「丹波黒枝豆」、いわゆる丹波の黒豆の枝豆がある。私の記憶では、漫画『美味しんぼ』で取り上げられてから、一気にブレークしたと思う。産地は、兵庫県の丹波から京都や岡山などにも広がっている。
岡山に「作州黒」という丹波種の枝豆がある。主産地は、中国山地の歴史ある宿場町である美作など。ほかにない特徴は、もちもちとした食感。これは、まさに釜炒り向き。一般的な大豆の枝豆とは違う、まったりとした香りと味わいが釜炒りで大きく花開く。旬は10月と聞いている。
最後に、枝豆の歴史を一つ
一般的に食べられるようになったのは江戸時代からが定説らしい。享和2年(1802年)に出版された歌川豊国と式亭三馬の『絵本時世粧』という風俗絵本に、赤ちゃんを背負った女性が江戸の長屋を売り歩く「枝豆売り」が描かれている。自宅にいながら、枝豆、魚、おでんなどを買えたのが江戸の町だ。
絵を見ると、枝ごとゆでてある。当時の江戸では、枝ごとゆでていたから「枝豆」と呼ばれていた。ちなみに京坂では、枝から切り離していたから「さや豆」と言われていたという(出典『守貞漫稿』)。
以上、飲み会の小ネタに使っていただければ幸いだ。
ちなみに「枝豆の釜炒り」は、2013年4月19日に発売した『プレジデントムック dancyu日本一のレシピ』に掲載されている。当時、「佐原茶寮 花冠」の司厨長だった松本栄文さんの料理だ。釜炒りする前によく枝豆を塩でよく揉むこと。枝についている側のさやの先端を少し切り落とし、湯気の逃げ道を作ると均一に火が入りやすい。この2つがポイントだ。
うまいもん筆頭目利き人
町田成一
1960年2月3日東京生まれ。月刊『dancyu』元編集長。
食こそエンターテインメントを謳う雑誌dancyu(ダンチュウ)で、1990年の創刊から30年以上にわたり、全国の美味しい食材と料理を取材してきた。2021年より株式会社食文化の「うまいもん筆頭目利き人」に就任。
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