手をかけて栽培し、誰よりも遅い完熟収穫
三重県御浜町
北東 明彦さんのみかん

北東農園は三重県の南、世界遺産に登録されている熊野地方にあります。
本州の中でも最も温暖な気候で海岸に近く、豊富な日光と程よい潮風があたる中でみかんを栽培しています。 霜の降りない土地なので、柑橘類は長期の完熟栽培が可能となり、ぎりぎりまで樹上で完熟させるこだわりの生産者です。
三重県御浜町は、温州みかんを始めとした柑橘類の生産が主産業で、「年中みかんのとれる町」が御浜町のキャッチフレーズ。一年を通して様々なみかん・中晩柑が栽培されており、ほとんど途切れることがないほどです。
御浜町は第二次世界大戦で食糧難が深刻になると、柑橘伐採令によって各地のみかん畑は衰退しましたが、地元農家が結束して農園を復旧した歴史があります。
小さなみかん産地の小さな農園。
「小さな」を生かした美味しいみかん作りを考えます。

「極早生みかん」と「ゆら早生みかん」を毎年販売してます。販売は例年11月〜12月です。収穫が遅く、完熟の美味しさは素晴らしいです。

「しらぬひ」は、とても味が濃いです。デコポンは個人の生産者なので名乗れずとも、糖度は高いです。販売は例年4月上旬ごろです。数量が少ないため販売できない年もあります。

ブラッドオレンジは早生の「モロ種」を栽培しています。色素が強く、鼻の奥に抜けるフルーティーな香りとコクがあるオレンジです。販売は例年3月末〜4月上旬です。

11月某日、朝の園地。澄みきった空が多くなるこの時期は、朝の気温が下がります。昼夜の寒暖差が大きくなり着色もどんどん進みます。
御浜町は、三重県のみかんの約70%を栽培している一大産地。太平洋沖には暖流の黒潮が流れる温暖な気候、かつ日本でも有数の雨が多い地域で、年間2,300mm程度(全国平均は年間1,500mmほどです)の雨が降ります。みかんは、和歌山県、長崎県、宮崎県、静岡県、高知県など温暖で雨量が多い土地で栽培されていますが、その中でも雨量が多い土地だと言えます。
北東家は和歌山県の有田でみかん作りをしていましたが、終戦後、先代のお父様が新たなみかん栽培地を求めて御浜町に移住しました。柑橘園地としては比較的小さな1ha程の畑を一人で栽培しています。
北東農園は、日当たりと風通しの良い東南向きの丘陵地に、元々が海の底であった排水性に優れた痩せた土壌が美味しいみかん作りを支えています。痩せた土壌では果樹は大きくなりませんが、果実は美味しくなります。
果樹が生命の危機を感じて、子供である果実を残そうとするためです。
特性に合わせた栽培
みかんは2年に一回の収穫

みかんには表年(豊作)と裏年(不作)を一年ごとに繰り返す「隔年結果」という性質があって、安定した経営のためには毎年同じ収穫量を確保する技術が要求されます。
しかしそれでは、みかんの味を損なうという側面があるため、北東農園では、あえて真逆の「隔年結実法」という手法を採っています。
園地を二つに分け一方の園地は、一年間ゆっくりと樹を休ませて十分に栄養を蓄えます。そして、体力十分のもう一方の園地は、通常よりもたくさんの実をつけます。
上の写真のように左側の園地は、美しいオレンジ色に染まります。一方で右側の園地は今年は収穫しないお休みの園地。このようにしてみかん本来の持つ美味しさを表現しています。
また、樹の仕立て方にも工夫しています。密植と呼ばれる、樹の間隔を1メートルの狭い間隔で植え、小さな樹に仕立てます。小さくすることで樹体内にも光が届き、まんべんなく美味しいみかんが出来るうえ、雨や夜露が乾き易くなります。
味を確かめて完熟収穫
北東農園の柑橘は、1本の木に多くならせることを基本としているため、みかんは2S〜Mの小さめサイズは基本です。そして味が乗るギリギリまで樹上に置きます。
様々な腕利き生産者の柑橘を扱う当店ですが、一番遅くまで完熟に近づける生産者といえます。
また、雨の多い土地なので、マルチシートを園地にしき水分をみかんが吸わないようにしています。マルチシートによる反射光により着色が素晴らしいギフト仕様のみかんに仕上がります。
北東のみかんにハズレなし
を基本としています

販売する商品には販売基準を設けます。その基準はJAや市場が求める外観や糖度などではなく、北東農園の名前を付けて売れるか?にあります。自信がないものは出せないということです。
「管理よりは天気へのお祈りが重要です」と平気で言う、お茶目な北東さんですが、出てくるみかんがあまりに凄いので、販売している私達も、仕上がりを楽しみに待っています。収穫に至るまでは、それこそ“管理”を徹底していることが良くわかります。
近年、生産者が口をそろえて「気候変動で思ったようにいかない」と言います。特に夏から秋にかけての高温は異常で、順調に生育しないことが多いそうです。北東さんも試行錯誤しながら、うまく行かなければ3週間収穫を遅らせて、ぎりぎりまで待ちます。
果樹栽培は一年がかり。栽培歴20年でも、たったの20回しか収穫(試行錯誤)が出来ません。専業農家は、自分の生活がかかっているわけですから、今年がダメでも来年頑張ればよいとはなりません。今年がダメだったら、来年は買ってもらえないかもしれないからです。
北東さんは、これだけ雨の多い土地で、毎年変わらず美味しいのですから、凄いとしか言えないです。
「北東のみかんにハズレなし」は、本人が基本として掲げていますが、高度な栽培技術と絶対に仕上げる気持ちがあってこそです。
文:(株)食文化 赤羽 冬彦