蔵の前には日本海。そして、背面には白神山地がそびえる風光明媚な土地で、創業当初は小さな蔵から始まりました。
「醸造期には、日本海からの寒気で急激に気温が下がるため、酒造りには適した土地なのです」と6代目・山本友文さん。
平成5年、「白神山地」は、世界的に最大級の広さを誇るブナ原生林が評価され、日本で初めて屋久島と共に“世界自然遺産”に登録されました。
白神山地の年間降水量は、4000ミリを越え、日本で雨量が多い屋久島に匹敵する降水量です。暖流の対馬海流の水分を含んだ風が白神の山々へ吹き上げ、冷却されて、雨や雪となって、八森地区に降りつけます。世界最大規模のブナの森で磨かれた上質な水は、この地に酒造りを繁栄させました。「全盛期には、町の誰もが白瀑へ就職するくらい、町全体に活気があり栄えたと先代から聞いています」と山本さんは言います。
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「秋田名物、八森ハタハタ・・・♪」と秋田音頭の歌詞にも出てくる八森は、白神の自然の恵み豊かな水が真瀬川の河口に広がる地域です。八森にある留山は、樹齢300年以上のブナが残る森です。
「うちの酒は、山中に湧く天然水を引いてきて酒を仕込みます。きめの細かい天然の湧水は、鉄分が少なくて、酒造りに最適な水なのです。もし、この森がブナでなく、杉林であったら、これほど良い湧水は出ないでしょう」と山本さんは話します。
まさに、白神の水は、酒造りにとって生命線とも言えます。白神の水を見守り続ける土地の人間だからこそ、白神が育む純粋無垢な水の大切さを知っているのです。
水
蔵の近くにある薬師山の麓には、酒銘の由来となった慈覚大師が開いた白瀑神社があります。古木に囲まれた1000年の歴史を刻む神社の奥には、高さ17mの名瀑“白瀑”が美しい姿で、四季涸れることなく清らかな水を注いでいます。蔵では、この神社の上流から湧き出る天然水を直接酒蔵まで自家水道で引き込み、酒造りのための仕込みをしています。
「戦前、うちで働く人と町の人が、湧水地から蔵まで、およそ3kmの自家水道を掘って作ったそうです。そして、今や、ろ過や加工をしないで、そのまま天然水を活かしている蔵元は全国でも数少なくなりました。」
こう語った山本さんは、6代目にして、白瀑の歴史の重みと責務を感じると話します。
米
白瀑は、大正時代に規模拡張をして、昭和40年代には、大吟醸の出荷を全国に先駆けて始めました。そして、30坪の地下貯蔵庫(冷蔵庫)の「一徹蔵」を造り、瓶貯蔵を行い、特定名称酒のみを製造して、酒質の管理をしています。酒の仕込み水にこだわることは勿論、材料となる米にも、こだわりがあります。
白瀑の酒のほとんどは、秋田産の酒米(酒造好適米)です。これまで原料となる米は丹念に厳選してきましたが、今年(2008年)から自家水道までの3kmに渡る道のりにある田んぼ7反に酒米を作り、“自ら米作りをして、よりこだわった酒を造り出したい“というのです。米と水というシンプルな原材料だからこそ、そのものが持つ本当の味が問われます。
人
酒蔵には、本来“蔵元”と“杜氏”がいます。しかし、白瀑では、6代目の山本さんが蔵元であり、杜氏でもあります。蔵元は、酒蔵の代表(オーナー)であり、主に経営面を担当。杜氏が蔵元の理想の酒を造る、いわば現場の監督といった役割に徹します。
白瀑では、永年の伝統に沿った酒造りを重んじてきました。しかし、日本酒の需要の落ち込みと杜氏自身の高齢化が進み、2つの役割分担が困難になってきました。そこで、山本さんは奮起して、2つの役割を担うことにしました。
「どこにも負けない最高の日本酒を造りたくて、杜氏任せにした酒を売るだけでは満足できなかった・・・」
と山本さんは言います。
「蔵元と杜氏の2つをこなしているのは、秋田でも46蔵のうち2つの蔵だけです。経営だけでなく、酒造り全体を見る目、経験をもっと養っていかなければなりません。しかし、“良い酒を造りたい“ この気持ちは誰にも負けません」
酒蔵が減り、日本酒を海外で造る企業があるからこそ、山本さんは、日本の米と水にこだわり続ける蔵人の信念を抱き、酒造りに情熱を注ぎます。
(1) 精米
多くの蔵元では、1月から2月の真冬に酒造りの最盛期を迎えます。白瀑でも、11月下旬ごろから収穫された米を精米していきます。 精米によって、余分なたんぱく質などを取り除くことで、雑味の少ない酒になります。全量特定名称酒で、 平均精米歩合が53%という数値は秋田県内でも随一です。
(2) 米の洗いと蒸し
精米された米を白瀑の天然湧水で洗い、吸水の後、約1時間かけて蒸します。
(3) 麹造り
室温35℃の室で、蒸された米の余分な水分を飛ばし、種麹を混ぜ合わせ、麹菌の繁殖を促します。麹造りに要する時間は、 約48〜72時間。美味い酒の鍵を握る麹が、その年の酒の出来映えを左右します。
(4) 酒母造り
麹と蒸米と水に酵母を加えて、酒母を造ります。そして、約14日間かけて酵母を増やします。
(5) 仕込み・搾り
酒母に麹、蒸米、水を加え、モロミを造ります。米のでん粉が麹によって、ブドウ糖に変わり、 そのブドウ糖の作用で酵母がアルコールを生成します。予定のアルコール分に達したら、モロミを搾り、酒と酒粕に分けます。
(6) 瓶詰め・火入れ
通常、搾られた酒を加熱殺菌(火入れ)しますが、白瀑では、タンク貯蔵やタンク火入れを廃止して、 瓶詰めした後に火入れをする「瓶火入れ」を行っています。火入れした酒を一気に冷まし、冷水シャワーで冷まし、 -5℃、0℃、5℃とそれぞれに設定された冷蔵コンテナで出荷まで瓶貯蔵します。こうすることで、搾り立ての新酒の ような華やかで新鮮な味わいを維持できるのです
現在、昔ながらの麹蓋を使用した手作りの製造にこだわり、純米吟醸酒や大吟醸酒などに力を注いでいる白瀑。 伝統と歴史を引き継ぎながら、新たな試みを行い、日本の酒の将来を担った貴重な酒蔵の一つといえるでしょう。