熊本県 南関町
塩山食品の南関(なんかん)あげ
もちもちとした強い弾力のある歯ごたえがくせになります。
その秘密の製法は、豆腐から徹底的に水分を抜き、昔ながらの手揚げで仕上げます。熊本の伝統の味です。
熊本の特産品「南関あげ」
福岡県との県境に位置する南関町は、江戸時代には参勤交代の宿場町として栄え、関所なども置かれていました。この町に古くから伝わる揚げ豆腐が「南関あげ」です。豆腐の水分を極限まで抜いた後に、2度揚げをすることでカリカリの仕上がり。味噌汁や煮物、煮込み料理などに入れると出汁をたっぷり吸いこみながら、ふっくらもちもちとした独特な食感が引き立ちます。
すべて手作業で一枚一枚。
南関町で伝統的な製法を
守り続けている塩山食品
地元に伝わる昔ながらの伝統食品「南関あげ」を製造している老舗の製造元です。南関あげが生まれた時期ははっきりとは分かっておらず、江戸初期から明治時代にかけてと言われています。
塩山食品が南関あげの製造に参画したのは、実はかなり後発の1980年代。しかしながら、今ではトップのシェアを誇る南関あげの企業に成長しました。1日最大1万5千枚の製造量をすべて手作業で一枚一枚丁寧に揚げています。3代目を受け継ぐ、塩山治彦社長に、塩山食品のこだわりを伺いました。
1日の作業開始は朝5時。
大豆からの豆乳づくりは、
塩山社長自らが行います。
全工程で1番大切なところを聞くと
「豆乳づくり」と教えてくれました。
南関あげの原料ともなる大豆は、数種類を独自ブレンド。温度や湿度によっても豆乳の工程で食味に違いが生まれてしまいます。原料の大豆の独自ブレンドや加熱時間等でコントロールを図り、一定の美味しさを保つようにしています。
ひと晩浸水した大豆は、塩山食品の企業秘密だという温度調整による加熱を経て、豆乳に仕上がっていきます。この豆乳づくりが最も南関あげの美味しさを左右すると、塩山社長は言います。
豆乳の中に気泡が入るようにします。
揚げた時に気泡の空洞ができ、
出汁がしみ込みやすく良い食感に。
豆腐の土台ともなる豆乳づくりが
最も大事な工程です。
豆乳の仕上がりを確認しながら、いよいよ豆腐づくりへと移っていきます。豆乳は外気温などでも様々変化するため、その日その日で豆乳の煮方や豆乳の凝固を調整して、油を吸いすぎない豆腐の土台づくりが必要です。
また、凝固前にはわざと気泡を沢山つくり、揚げた時に細かな気泡が入ることで、南関あげを食べる際に、出汁の吸い方や食味を良くする工夫もほどこします。
手作業で豆腐づくりへと
移っていきます。
豆乳に凝固剤を加え、型に流し込んだら、プレス機を通して形を成形します。プレスによって、いよいよ豆腐が完成します。まだ温かい状態の豆腐は、深いシンクに張られたたっぷりの水に沈めて冷却し、落ち着かせます。
大豆のブレンドによって
スライスの厚さを日々調整します。
この日のスライスの幅は約7ミリ。大豆のブレンドによって水分量が異なるため、細かにスライスサイズを変えるこだわりようです。この後、水分を極限まで抜くプレス作業や、手揚げ工程など、まだまだこだわりポイントが続きますが、豆乳や豆腐の土台づくりから成形と、完成までにどこの工程でも違いが生まれないように正確に作業が続いていきます。
ここでも丁寧な手作業で1枚1枚。
水分を抜くプレス工程に向けて、
布に豆腐を並べていきます。
全ての工程において、丁寧な手作業を各ポジションの従業員が行っていきます。
塩山食品では、工場内のすべての工程を各従業員が出来るようにし、全工程における理解をすることで、工程ごとのブレが生まれないようにして、一定品質の製品の完成を目指していきます。この時点で、豆乳づくりの気泡がスライスされた豆腐の表面にくっきりと出てきています。
約1tの圧力をかけて約1時間
極限まで
水分を抜いていきます。
スライスして布をかぶせ、数段かさねた豆腐に、1tの圧力をかけて、約1時間。じっくり時間をかけて極限まで豆腐の水分を抜いていきます。こうして水分をしっかり抜くことで、仕上がりはカリッと。加熱した後には、もちもちとした食感が生まれます。
「触ってみてください」
水分が抜かれた豆腐は
まるで帆布のようです。
揚げる前の豆腐が仕上がりました。7ミリだったスライスした豆腐は、3ミリにまで薄くなりました。美味しい豆腐の土台、食感を生み出す細かな気泡、そしてプレスの際に覆っていた布の跡までが、南関あげの表面のトレードマークのようなもので、すべてが必要になるものです。
まさに職人技。
すべての従業員が自らの技術に
誇りをもって手揚げをしています。
横一列に並んだ揚げ台では3人1組。低温と高温で2度揚げをしていきます。
真ん中の揚げ人が1次揚げ。水分を抜いた布のような豆腐をキャノーラ油に入れると、まるで生きているかのように広がり始めます。低温で1分程度、ある程度の大きさまで広がると、素早く両端の2次揚げのフライヤーに箸と網を使いながら巧みに受け渡していきます。まさにチームプレー。両端の2次揚げ人は高温で5分揚げます。3台のフライヤーを抱えており、2台が空いている状態になるとロスなのだと塩山社長は話します。真ん中のコントロールする揚げ人は、フライヤーに空きが出ないよう常に確認しながら、豆腐を受け渡し、生産量を上げるかが肝です。「1枚1枚手作業なので大切なポイントのひとつです」と話します。
従業員は揚げの工程が
できるようになると一人前。
南関あげの品質を落とさぬように、
すべての工程が出来るように
目指しています。
2次揚げでまだ柔らかい南関あげを受け取った両端の揚げ人は、硬く形が決まってしまう前に、箸と網を使って手早く形を整えていきます。布のような豆腐の状態から約4倍まで大きくなります。形が揃わないと大判の商品にはなり得ないため、熟練の技が必要です。6枚を広げ終えたら、網を落として沈み込ませ、低温で泡が出てこなくなるまでじっくりと揚げたら完成です。
最後の検品作業に立つ人は、
すべての工程をマスターした
熟練チーム
塩山食品には、大判サイズから、1/4程度の大きさのもの、カットのものなど規格は様々。仕上がった南関あげを約1秒の早さでどの規格に使うかを見極めて袋詰めに回しながら、きれいに成形やカットなども行っていきます。ここまでも1枚1枚手作業なのには驚きますが、一定品質のものであるかの目視検品でもあります。
今まで、まな板に乗せてからザクっとカットしていましたが、少し立てて包丁を入れるとまっすぐきれいに切れますよ。と教えてくれました。
カリカリ食感を楽しむ
豆乳をつくる段階で沢山の気泡を含ませた豆腐は驚きのカリカリの仕上がりに。そのままカリッとした食感を楽しみながら食べるのももちろん美味です。
うどんやおそばなど、温かい麺にお好みの大きさに割り、お楽しみください。
お味噌汁に入れて
手軽に簡単調理
どうやって食べたらいいのだろう、という心配はいりません。お味噌汁にそのままお好みの大きさに割って入れるだけ。油抜きなどしなくても、不思議と油くささなどもありません。お好みの野菜と一緒にお味噌汁などでまずはお召し上がりください。塩山社長のおすすめはカレーでした。焼きそばや親子丼、炒め物の具など様々なお料理に入れて味わうことができます。
3代目の塩山治彦社長
「もっと多くの方に南関あげを知ってほしい」
若さに驚きましたが、近くには物産館なども展開する若き敏腕社長です。工場近くに直売所として運営している、南関いきいき村と合わせて従業員数は約150名。製造から販売まで、手づくりが多いために、従業員なしでは成り立ちません。そして、従業員の皆様も高い向上心をもって働いているのがすぐわかります。「熊本に昔からある食ですが、昔から今も変わらない伝統の味を守りながら、もっと多くのお客様にも知って食べていただきたいです」と塩山社長は話します。
文:食文化 田中利佳



