水茄子糠漬け
台所門おざき
京都の老舗・夏の風物詩
地元のお客様に愛される「おざきの味」
創業百余年 台所門おざき は京都本願寺の近く、下京区樽屋町の漬物屋です。
観光客にはわかりづらい小路にある為、お客さんは地元の人がほとんど。
まさに、地元の京都人に愛される街の漬物屋です。
鰻の寝床のような敷地。手前が店、中が事務所、奥が漬物の仕込み場になっています。
毎日売る分を、素材や天候を見ながら漬け込む日々。大量生産とは縁遠い、手作りの漬物がおざきの魅力です。
おざきの創業は明治35年。元々は伏見区深草大亀谷で「桃山大根」を栽培する農家でした。桃山大根は別名大亀谷大根、鼠大根とも呼ばれ、辛みがあり長時間たっても色や香りが変わらないことから、沢庵用大根として重宝されてきましたが、大亀谷地区の都市化とともに、沢庵用大根産地は三重県伊勢市に移っていきました。
そこで、現社長の尾崎雅一さんの先代が、農家から漬物店に転向。伊勢から仕入れた大根で漬物をつくるようになったのが「台所門おざき」の歴史の始まりです。
夏の人気商品は「泉州 水茄子」
夏のおすすめは何といっても「水なすの糠漬け」です。「泉州 水なす」は皆さんご存知の通り、大阪野菜です。大阪の南部(泉州)の泥地でしか育たない茄子で、水分が非常に多く、クセがないため、暑い夏には欠かせない野菜です。
昔から、農作業の合間など、夏の水分補給にも一役買っていたようです。 また、同品種を京都で育てたものは山科なすや丸なすという名で出回っています。 水なすを使った糠付けも元々は大阪の名物でした。しかし、今では京都のほとんどの漬物屋で売られています。しかも夏の看板商品になっているお店も少なくありません。
水なすが京都に入ってきたきっかけは、「売れ残り」にありました。
泉州で作られた水なすは元々、大阪府内だけでほぼ全てが消費されていましたが、生産者が増えるにつれて、多くが売れ残るようになりました。 そうした売れ残りを京都で売ってくれないかと京都市中央卸売市場にはじめて水なすが持ち込まれました。これに目をつけた漬け物店が糠付けをはじめたのがきっかけと言われています。
漬け物技術が発達していた京都で加工した方が、美味しく仕上がったのかもしれません。また、猛暑の続く京都盆地では、このみずみずしいなすが重宝されたのかもしれません。ともあれ、今では京都でも夏に欠かせない漬け物の一つになっています。
※9月からは京都山科地区で栽培される京のブランド野菜 "山科茄子"でご用意いたします。
京都の夏の風物詩
おざきでも4月に入ると「まだ水なすやってないの?」と待ちきれないお客さんからの問合せがあるそうです。
しかし、そこは味を守り続けてきたおざきです。「今の時期の水なすはまだおいしくないから、もうちょっと待ってください」と丁寧にお断りしているそうです。 そして、ようやく今年1回目の仕込みが始まります。
まずは、一つ一つ丁寧に塩をすり込みます。「これ全部まとめて樽の中でもんだらダメなんですか」との問いに「一個一個ちゃんとせんと、きれいな色がでーへんしな。それに、水なすは傷つきやすいから」と あくまでも手作業にこだわります。
そして、糠にもやはりこだわりがありました。「うちでは漬ける野菜によって糠のかたさを全部かえてるんや。茄子は耳たぶくらい。ちょっとやらかめやな」と。
いよいよ樽漬けだと見ていると、大きな樽にたったの10個程しか入れません。
「茄子同士がくっつくとあかんねん、すぐ色がかわるから。それから、たくさんの糠でつけたほうがおいしいねん。たった10個漬けるのにこんないっぱい糠使うのあほらしいけどな」と。
これを一晩寝かせると浅漬けの完成です。 随所にこだわりがあり、一切手抜きをしない姿勢は本当に脱帽します。
(株式会社 食文化 代表取締役社長 萩原章史)